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福岡高等裁判所 昭和48年(う)513号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人上村洋を罰金二万円に、被告人筑紫建彦を罰金一万五〇〇〇円に、被告人久保善博を罰金五〇〇〇円に、被告人柿本和夫を罰金一万五〇〇〇円に、被告人角文隆を罰金五〇〇〇円に、被告人秋根康之を罰金二万円に処する。

被告人らにおいて右各罰金を完納することができないときは、金一〇〇〇円を一日に換算した期間、不完納の被告人を労役場に留置する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人有馬毅、同高森浩が安名で差し出した控訴趣意書、検察官が差し出した控訴趣意書にそれぞれ記載されたとおりであり、弁護人の控訴趣意に対する答弁は、検察官から差し出した答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用し、これに対し次のとおり判断する。

弁護人有馬毅、同高森浩連名の控訴趣意一・二について。

所論は、原判示「罪となるべき事実」第一において、「被告人上村、同柿本は学生ら約一〇〇〇名と共謀して、……(3)同日(三七年一二月八日)午後四時一四分ごろ福岡市上西町所在の第一銀行前から同市上呉服町所在の第一生命ビル前に至る道路(国道二〇二号線)上約五〇メートルにわたり、右行進の隊列とともに右(2)と同様の幅で左右に揺れ動いて蛇行進を行ない」と認定し、また第二において、「被告人秋根は、学生ら約二〇〇名と共謀して、同日(昭和三九年四月二八日)午後三時一五分ごろの約五分間、同天神町交差点中央附近から因幡町交差点に至る道路(国道二〇二号線)上約一一〇メートルにわたり、右行進の隊列とともに車道左側端から道路中央の西鉄市内電車軌道敷西行線上に至る位の幅で左右に揺れ動いて蛇行進を行ない」と認定したが、各事実とも本件蛇行進は被告人上村、同柿本ないし被告人秋根の指示、また学生らとの共謀にもとづくものではないから、以上の認定はいずれも重大な事実誤認である、というのである。

しかし、原判決挙示の各関係証拠によると(所論指摘の原審証人石郷正人の供述は、他の証拠と対比すると、信用性のあることが充分に窺われる。)、原判示のようないわゆる蛇行進のあつたこと、これらの蛇行進は被告人上村、同柿本、また被告人秋根が多数の学生らに指示ないしこれと共謀したことにもとずいたものであることを肯定することができ、なお他の各証拠及び当審における事実取調の結果を検討しても、右の事実が誤認であることを疑わしめるに足りる形跡を発見することができない。

論旨は理由がない。

同控訴趣意三について。

所論は、有罪となつた原判示集団示威行進はいずれも可罰的違法性をもたないというけれども、本件の場合、約一〇〇〇名及び約二〇〇名の集団が市内の幹線道路(その中には所論のいうように福岡市庁、福岡県警察本部などの所在する官庁街も含まれている。)において、午後三時ころから午後四時ころまで、また午後三時ころ大学管理法の制定反対ないし日韓会談等反対の各意思を表明するためとはいえ、警察署長が道路使用を許可するにあたり付した条件に違反して蛇行進を行ない、もつて一般交通を阻害したのみならず、蛇行進自体に不測の混乱や危険を生じさせるおそれのある因子を含んでいた以上、集団行動による表現活動としての相当な範囲を逸脱したものというべく、実質的違法性が認められるのはいうまでもないし、その違法性が軽微で可罰的違法性を欠くともいえないのである。

なお所論は、祭礼行事の類型に属するマラソン駅伝、どんたくパレード、ブラスバンド行進などにおいては、数時間に亘り車両の通行を全面的に禁止したり、他の道路に迂回させる方法などを採つて車両の通行を規制しているのに、本件のデモ行進において蛇行進をしたとの事由のみで処罰の対象とするのは、両者の間に著しく公平を欠くというけれども、関係証拠によると、前者のマラソン駅伝、どんたくパレードなどの場合には、前もつて主催者側と警察側との間に密接な打ち合せがされて、その結果が参加者全員に周知徹底されているし、また体育増進的、娯楽的などの要素をもつが、勢威的要素を欠く団体行動であるため集団示威行進などの場合と異なり、警察署長の付した条件を厳守してスムースに行進し、かつて当該条件に違反したことは、ほとんどなく、将来もその違反のないことが確実に予想されること、従つて一定区間、一定時間間に交通を杜絶しないし規制しても、全体的にみて一般交通を円滑に流通させるように指導企画を立てることが容易であることを窺知できるから、両者の行進の規制につき相異する点があつても、特にこれを目して不公平、不平等であると論ずるのは当らない。

従つて、論旨はすべて採用することができない。

検察官の控訴趣意第一について。

一所論は、原判決の第一部「有罪部分の理由」の第一において被告人上村、同柿本は学生ら約一〇〇〇名と共謀して昭和三七年一二月八日蛇行進を行なつて、所轄警察署長が道路の使用の許可にあたり付した条件に違反した(昭和三八年四月一一日付起訴状記載の公訴事実)、第二において被告人秋根は学生ら約二〇〇〇名と共謀して昭和三九年四月二八日蛇行進を行なつて、前同様道路の使用の許可にあたり付した条件に違反した(昭和三九年八月一七日付起訴状記載の公訴事実第一の三)との事実を肯定し、蛇行進禁止の条件に違反した点につき有罪としたが、第二部「無罪部分の理由等」において、前記第一部「有罪部分の理由」中の第一の被告人上村、回柿本が学生ら約一〇〇〇名と共謀して昭和三七年一二月八日集団行進した事実(昭和三八年四月一一日付起訴状記載の公訴事実)、被告人上村、同筑紫同久保が学生ら約七〇〇名と共謀して昭和三八年五月二〇日集団行進した事実(昭和三九年一月八日付起状記載の公訴事実第一)、被告人秋根が一〇〇名と共謀して昭和三八年一一月一一日集団行進した事実(昭和三九年八月一七日付起訴状記載の公訴事実第一の二)、被告人上村、同柿本、同角が昭和三八年五月三一日集団行進した事実(昭和三九年一月八日付起訴状記載の公訴事実第二)、被告人秋根、同筑紫が学生ら約二三〇名と共謀して昭和三八年一〇月三一日集団行進した事実(昭和三九年八月一七日付起訴状記載の公訴事実第一の一)において隊列をそれぞれ八、九列位、六列ないし一〇列位、六、七列位として行進したと認定したにもかかわらず、本来所轄警察署長が本件各集団行進の道路使用の許可にあたり隊列を定めるには左側車道一杯を使用する限度、すなわち八列程度に定めるべきであつたのに四列縦隊と限定したのであるから、この条件は道路交通法七七条三項の要件として考えられる、委任の限度を越えて付されたものであつて、違法無効と解し、従つて同法一一九条一項一三号、すなわち「七七条(道路の使用の許可)三項の規定により警察署長が付した条件に違反した」との罪は成立しないものとして無罪の言渡をしたが、右は道路交通法の解釈適用を誤つて本来罪となるべきき事実について無罪と解釈認定したのであり、その過誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

二ところで、福岡県では、東京都を初め他の道府県、市町村が集会、屋外集会、行列行進、多衆運動、集団示威運動など各種の集団行動に関する規制として、いわゆる公安条例を定め、当該公安委員会の許可ないし届出受理(許可制ないし届出制)によつて右の集団行動を規制する方法を採つているのと異なり、これらの公安条例を設けずに、専ら道路交通法規にもとずく、所轄警察署長の規制に委せている。(集団行動に関し福岡県の採つた法的規制の方法の当否、その方法を採つたことによつて公安条例を別に定めた場合と異なり、特に集団行動者側、警察側の間に派生する各種の利害得失は、ここで触れる限りでない。)

すなわち道路交通法(以下「道交法」という。)七七条一項四号は「次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可……を受けなければならない。

(一ないし三号省略)

四 道路において祭礼行事をし、又はロケーションをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為……で、公安委員会がその土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者」と定めているところ、福岡県公安委員会は右条項の委任を受けて、福岡県道路交通法施行細則(昭和三五年一二月一七日福岡県公安委員会規則一〇号)一二条一号において「法(道路交通法の意)七七条一項四号に規定する警察署長の許可を受けなければならない行為は、次の各号に掲げるものとする。

(1)  道路において祭礼行事、競技会、仮装行列、パレード、集団行進その他これらに類する行事又は行為をすること。」((2)ないし(8)は省略)と定め、本件のような集団示威行進、すなわち「集団行進その他これらに類する行為」については、警察署長の許可を受けなければならないものとしている。(なお本件行為のあつた昭和三七年一二月ないし昭和三九年四月の以後に、昭和四七年四月一日福岡県公安委員会規則七号をもつて(新)福岡県道路交通法施行細則を制定し、前掲の(旧)福岡県道路交通法施行細則を廃止したうえ、附則として三項「新細則――(新)福岡県道路交通法施行細則の意味――の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。」、五項「新細則の施行前に旧細則――(旧)福岡県道路交通施行細則の意味――によつてした申請その他の手続及び処分は、新細則中これに相当する規則があるときは、新細則によつてしたものとみなす。」((前記の旧細則一二条一号に相当するものとして新細則二二条一号が設けられている。))と規定しているので、本件については依然として(旧)福岡県道路交通法施行細則一二条一号が適用されるのである。)

次に、福岡県道路交通法施行細則一二条一号にもとづき「集団行進その他これに類する行為をすること」につき所轄警察署長に許可の申請があつた場合については、道交法七七条二項が「当該申請に係る行為が次の各号のいずれかに該当するときは、所轄警察署長は許可をしなければならない。

(一号は省略)

二 当該申請に係る行為が許可に付された条件に従つて行なわれることにより交通の妨害となるおそれはあるが、公益上又は社会の慣習上やむ得ないものであると認められるとき」と定め、また同法七七条三項は「(警察署長が)許可する場合において、必要があると認めるときは、所轄警察署長は、……当該許可に道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することができる。」、同条四項は「所轄警察署長は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため特別の必要が生じたときは、前項の規定により付した条件を変更し、又は新たに条件を付することができる。」と規定している。

三以上のように、福岡県にあつて道路上における集団示威行進(以下、原判決にならつて「デモ行進」と称する。因みに、昭和二五年東京都条例四四号・集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例、いわゆる都公安条例は、集団行動として、集会のほか集団行進、集団示威運動を掲げて、示威を伴う行進と、これを伴なわない行進とを区別しているので、本件のデモ行進は、都公安条例の用語に従えば「集団示威運動」に該当する。)も、所轄警察署長が道路交通法規にもとづき規制する以上、公安条例中にそれぞれ示された基準とは異なり、道交法一条に掲げられたように「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図ること」を基準とすることは、当然である。

しかし、デモ行進などの集団行動は、憲法二一条にいう意思表現の一型態であるから、その表現の自由が強く保障されなければならないことはいうまでもないことである。従つて警察署長は道路上でデモ行進をするとの申請があつた場合に、道路上の交通秩序が妨害されることは明らかであつても、特段、特別の事情のない限り、道交法七七条二項によつて、これを許可しなければならない。そして、この許可は、同条項二号に従つて、交通の妨害となるおそれのなくなる程度に厳しい条件を付して、初めて与えられるものではなく、三号によつて許容されるのであるから、憲法上の表現の自由の要請は、同号にいう「公益上又は社会の慣習上やむを得ないもの」に具現化したものとして解釈されなければならない。

なお同条三項によつて、道路上の交通が甚しく妨害されることに備えて、これを適度に軽減するため、道路使用の許可につき条件を付することができるが(ここにいう条件とは、道路を使用する者に一定の義務を負わせる行政処分である。)、規定の文言からも「公益上又は社会の慣習上、やむを得ないものであると認められ」て許可された以上、仮に交通の渋滞、混乱を防ぐためであつても、デモ行進の許可に厳しい条件を加えた結果、許可されたデモ行進のもつ本質を没却させるようなことがあつては、デモ行進を許可した意味がなくなるから、その不当であることは当然である。しかしながら、デモ行進なるが故に、いかなる交通の阻害、混乱を生じてもよいというものでないことは、もちろんである。

従つてデモ行進のもつ表現の自由が、その付された条件によつて制約される意味とデモ行進によつて侵害される道路交通の安全及び円滑とを具体的に慎重に検討したうえ、条件の設定は必要な最少限度に留められるべきである。

四原判決も以上と同様の見解に立脚していることは、その説示にかんがみてて明らかであるが、問題は具体的な条件設定に加えられる価値判断の当否である。

検察官は、原判決理由で四列縦隊に関する条件設定に関して具体的に示された判断と所見を異にし、これを強く非難するので、次に検討しよう。

原判決(一七枚裏以下)の論ずるところは、「四列縦隊という隊列の合理性について考えると、……所轄警察署長としては右のように国道二〇二号線の左側車道の幅が平均約五メートルであるところから、デモ行進において一人の参加者の占有する幅を0.6ないし0.8メートルと想定し、四列であれば2.4ないし3.2メートルの幅でデモ行進が進むこととなり、従つて残りの2.6ないし1.8メートルの幅(約一車線)を自動車が進行できるとの考え方に基づいて四列と定めたものと窺えるが、『交通の安全と円滑』のために必要な条件とは、当該道路における一般交通をデモ行進の進行にかかわらず日常の流れと同一水準に保つための条件を意味するのではなく、前記のようにデモ行進が本来的に他の一般交通にある程度の支障を生じるものであることを前提としたうえで、いいかえればデモ行進が政治的、経済的主張等を表明する表現行為として社会的に重要な機能を果していることから、他の一般交通もデモ行進参加者らのそのような権利行使を尊重し、これにより自己の交通の利便が多少害われることを受忍する義務のあることを前提として、右のような一般交通の受忍義務の限度を越える交通妨害を防止するために必要な条件と解されるから、前記認定のとおりかなり幅員の広い本件道路において、現今に比較すれば自動車交通にとつては天国ともいうべき前記程度の交通量で、かつ、前記認定のとおり軌道敷を利用すれば自動車がデモ隊列を追越すことが可能な状況のもとでなお同一方向に進む自動車がデモ隊列と並列行進できるための一車線を確保しておくことが、『交通の安全と円滑』のために必要であつたとは直ちには考えられない。」というのである。

まず一考を要するのは、一般交通者に対して自己の交通の利便が多少害われることを受忍するように要請するためには、デモ行進が合法的に整然として行われることを前提としなければならないことである。(もつともデモ行進中に警察官側ないし一般人側から挑発的、侮蔑的な言動、また機動隊などによる過度の規制があつたために、デモ行進を整然と実行できないときは、別である。)

もし、周囲の状況から当該デモ行進が整然と行なわれない蓋然性が特に強いときに、一般交通機関に対してのみ犠牲を強いて、交通の利便を害することを要求するのは、事理の性質からみて、不当であつて、許されないことである。

ところで、原記録の関係証拠によると、デモ行進をするために申請者が警察署に現場責任者などを定めて道路使用許可申請書を提出した際に(道交法七八条、同法施行規則一〇条)、申請者からデモ行進のコース、形態、現場責任者名などを説明し、また係官から隊列は四列縦隊とすること、蛇行進をしないことなどの条件の設定について説明し、双方の了解(この了解の中には申請者ないし現場責任者の内心の不満を含む。)が成立したうえで、提出手続が終わつたのにかかわらず、たとえば昭和三七年一二月八日の大学管理制度改正反対のデモ行進が警固公園を出発するとき、被告人上村は携帯マイクにより女子学生を列の中に入れて八列縦隊を組み、各梯団の間隔をつめるように越り返し指示し、また蛇行進をしたこと、昭和三八年一一月一一日の三池炭鉱犠牲者追悼のデモ行進の際、一般労働組合員、社青同の各梯団は許可条件に従つて四列縦隊で行進したのに反し、被告人秋根は携帯マイクにより学生の梯団に向つて六列縦隊で行進するように指示して、五列ないし八列で行進せしめ、なおこれに関する警察官の警告に従わなかつたこと、本件の各デモ行進中に警察官から許可条件の不遵守を警告された際、デモ隊員がこれを屡々無視した行動に出たことなどを肯定することができる。従つて、警察署長が過去における特定のデモ団体の行進の実態に関する観察を慎重、冷静に積み重ねることによつて、これを条件設定の一資料とすることは妥当といわねばならない。

五次に原判決(一九枚表)は、各デモ行進の進路たる道路の形状構造、実態や歩行者、路面電車、その他の車両の交通量、デモの隊列とそれにより影響を受けた交通の状況などを仔細に確定検討した結果、「本件各デモ行進の場合、道交法七七条三項に定める『道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図る』との目的は、現実の隊列がそうであつたように八列程度の隊列(左側車道一杯を使用する程度)という条件を付することで最少限度達しえたものと認められ、前記のようなデモ行進のための道路使用の許可およびこれに附随する条件の本質に照らし、右最少必要限度を越えて付された四列の隊列という条件は、同項の要件を欠く違法なものであつて無効と解せざるをえない。」と説示し、これに対して検察官も各種の証拠資料をもとにして当該状況を明らかにした結果、「これらの交通事情を併せ考えれば、デモ隊と同一方向に進む自動車がデモ隊列と並列行進できるための一車線を確保しておくことは、道路交通法七七条三項の『交通の安全と円滑』のために必要であつたといえるのであり、従つて本件各デモ行進に際し、所轄警察署長が隊列を四列とする条件を付したのは合理性のある必要最少限度の規制と解すべきである。」と述べるので、次に考察を加える。

本件各デモ行進の進路の主要道路は二級国道二〇二号線であつて、その全長にわたり道路中央に幅約4.4メートルないし約4.9メートルの、西日本鉄道株式会社経営の、いわゆる西鉄市内電車(路面電車)の軌道敷が設けられ、デモ行進の進路部分たる道路左側部分は、最狭4.4メートルないし最広8.5メートルの車道と四メートル前後の歩道からなつていること、各デモ行進の隊列は、所轄警察署長の付した隊列を四列とする条件に違反し六列ないし一〇列の隊列で行進したため、右国道の進行にあたつてはその全長近くにわたり軌道敷左側の車道をほぼ一杯に使用する結果になつたこと、右デモ行進が平隠に縦隊行進を行なつていた際には、自動車が軌道敷部分を使用してデモ隊列を追い越している個所もあることは原判示認定のとおりである。

しかしながら、原記録の各証拠及び当審における事実取調の結果を総合したうえ、各デモ行進の進路の道路及び交通の状況を仔細に検討すると、国道二〇二号線の車道の幅員は一様ではなく、各所において著しく広狭の差があつて、本件当時各デモ隊と同一方向に進行する西鉄市内電車の運行間隔は平均一分一秒ないし一分三五秒であつたこと、これに加えて、デモ隊列の進行速度が概ね緩慢であつて、他方、デモ隊列が車道からあふれて軌道敷の間近かとか、あるいは軌道敷の端を進行することがあつたため、電車も危険を回避するため、しばしば徐行運転を余儀無くされたことなどから、自動車がデモ隊列を追い越すために軌道敷を利用しているのは、たまたま電車がデモ隊列の右側方を進行していない際の、限られたわずかな間隔を縫つてこれを利用し得たものといえること、現に自動車がデモ隊列の右側方を並列進行する電車のために軌道敷を利用することができず、デモ隊列の後尾について一時停止し、或は徐行して行進することを余儀無くされて、交通が著しく渋滞した場面が各所に現出していることが認められる。

また福岡県公安委員会は、昭和三八年四月一〇日道路における交通の禁止、制限等に関する告示(福岡県公安委員会告示第一六号)により本件各デモ行進の進路になつている国道二〇二号線に関し、もつぱら人を運送する構造の普通自動車が軌道敷内を通行することを許可するに至つたが、これは、右国道における自動車の交通量が激増していることを物語るもので、しかもバス、大型貨物自動車等の大型車両については依然として軌道敷内の通行を禁止されていること、また本件各デモ行進の進路はいずれも国道二〇二号線のほか、国道に通ずる市道もその進路に含まれており右市道における道路幅もまちまちで一定しておらず、最狭約5.5メートルないし最広約一五メートルの概ね歩車道の区別のない道路であつて、右市道を八列の隊列で進行するとすれば、道路幅の狭い市道においてはデモ隊が道路を全面的に利用することになるのであつて、現にデモ隊が六列程度の隊列で道路幅の狭い道路を進行した際、自動車は勿論のこと一般歩行者の通行をも殆んど遮断する結果になつていたこと等の事実を肯定することができる。

さらに原判決の説示するように左車道一杯を使用するため隊列を八列程度に定めたとした場合に、このような設定があればデモ行進者は他の条件を遵守するとの保障があるか、または条件違反はすべて警察官、機動隊員ないし一般人の挑発によつて発生するとの命題が成立すれば格別であるが、仮にそうでなくて八列の縦隊が他の条件たる蛇行進の禁止を破つた場合を仮定すると、勢の赴くところその隊列数は恐らく更に増加したうえ、隊列全体が波動移動し、振幅が予期以上に大きくなつて、電車の軌道敷内に相当部分が侵入するであろうことも容易に推察できるし、なおこのような状態の隊列が因幡町交差点のような電車の軌道敷内を南北に横断するときは、上り下りの各交通が停止遮断されるため混雑も倍加すると想像されるのである。

六以上のような諸種の状況を前提とするとき、原判決が所轄警察署長が隊列を四列としたことを目して、道交法七七条三項に定める「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため」に付せられるべき条件設定の限度を著しく逸脱し、当該条件をして無効に至らしめる程度に重大かつ明白な瑕疵を含み、違法であると解したのは、法令の解釈適用を誤つたものというべく、その誤が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。

〈以下、省略〉

(藤野英一 真庭春夫 池田義憲)

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